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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)1563号 判決 1976年4月16日

原告

ビエロ・エ・ゼドラー

右訴訟代理人弁護士

平田精甫

被告

宗教法人聖心布教会

右代表者代表役員

ヨゼフ・バーク

右訴訟代理人弁護士

大脇保彦

外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告の請求の趣旨

1  原告が宗教法人聖心布教会の会員の地位を保有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する被告の答弁

(本案前の答弁)

1 原告の請求を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

主文同旨

第二  当事者の主張

一、原告の請求原因

1  原告はオーストラリアに国籍を有し、昭和一八年(一九四三年)二月カトリツク修道会の一つである聖心布教会(総本部は在ローマ)の会員となり、その後昭和二四年(一九四九年)七月二四日カトリツク司祭の資格を得て終身誓願者(聖心布教会典範第一五五条)となつた者である。

原告は、昭和二七年(一九五二年)二月来日し、その後一時オーストラリアに帰国したが再び来日し、昭和三八年(一九六三年)九月から昭和四一年(一九六六年)三月までロンドン大学へ留学した期間を除いて日本国に居住している。

2  被告は昭和二八年(一九五三年)四月三日宗教法人法の規定により登記手続を了して法人格を取得した宗教法人である。

3  被告は、宗教上はローマ法王庁を頂点とするキリスト教カトリツク派に属し、同派の修道会聖心布教会の日本管区が日本法にとつて法人となつた修道会であり、カトリツク教会法典(以下「カノン法」という)および聖心布教会典範(以下「典範」と略称する)によつて秩序が維持される団体である。被告は世俗と隔絶した修道生活を送る修道会(例トラピスト、ベネデイクトなど)と異なり、社会的活動に重きを置き、学校、児童教育事業などに熱意を示す修道会である。そしてカトリツク派では、可祭は所属する教会、修道会の共同生活体(コムニタス)の一員となる。日本では所属教会が日本国内法上法人格を取得することにより自らも法人の構成員となる関係が存する。然して修道会聖心布教会における会員たる地位の喪失はすなわち被告会員たる地位を失わしめる関係にある。

4  原告は来日以来被告の会員として、日本において司祭としての伝道活動に従事し、港カトリツク教会、小牧カトリツク教会でミサを行い、教説をなし、昭和四七年(一九七二年)二月まで被告の教会でミサを行つた。そのかたわら名古屋英語アカデミーを創立して初代院長となり、カトリツク・センターを設け、東山カトリツク教会、中村カトリツク教会に英語教室を設けた。

5(一)  原告は昭和四七年(一九七二年)三月二二日書面で」カノン法第六五三条に基き、原告をその近時における行状に照し退会処分にする。法王庁は右処分を承認する手筈である。」旨の通告を受けた。

(二)  しかし、右退会処分(除名処分)は、理由に具体性を欠き、原告のいかなる行状がカノン法第六五三条(同旨典範第一五六条)所定の「重大な外部的醜聞」あるいは「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪」にあたるか不明であり、被告がことさら勝手な理由をつけて原告を除名する意図に出たのであつて無効である(同法第一〇四条)。また本件除名処分はカトリツク教徒にとつては最も重い処分であるのでその実行には慎重な手続が要請され(典範第一五五条)、特に即座の処分は例外の場合に限られる(同第一五六条)ので、過去三〇年近くにわたる伝道者である原告の身分を剥奪する本件の処分は、除名処分に要請される要件を無視した処分であり、無効である。

なお通常の除名処分についてカノン法第六四九条、第六五〇条(同旨典範第一五五条)に定められており、これと異なり急になされた本件処分はカノン法の趣旨にそわない別の意図をうかがわせるだけである。

(三)  本件除名処分は、被告代表者ヨセフ・バークらが原告を除名するために除名要件である醜聞をほしいままに作出し、かつ、原告に聴聞あるいは弁解の機会を与えることなく、また除名処分の理由も告知せずになした処分であるから、日本国の公序に反し無効である。

(四)  被告から原告に対して出された処分通知には、原告がオーストラリアに帰国することが改心の兆であつて、改心が除名処分を受けないための条件であるとしながら、実はその前、既に、帰国の有無を問わず除名処分にする旨決定しているのであるから、このような被告らの態度は原告を罠にかけるに等しく、著しく信義に反する。

6  宗教法人のなす除名処分の存否、有効無効はすべて裁判所の司法審査の対象となるから原告の請求は訴訟適格を有する。被告の除名処分がカノン法(バチカン市国の「法源に関する法」によつて同国の法源の一つとされる)に基づくことは裁判所の審理の対象から免れることにならない。本訴は、被告自身が簡略化した形ではあるがカノン法とほぼ同旨の、殊に修道者の除名処分に関してはほとんど同文の規定を「聖心布教会典範」と称する自治法規の中に持つており、その適用を問題とする場合であるとも解され、一宗教派内の自治法規の解釈適用の問題と考えるほうが適切である。何れにしろ被告のなした処分は日本古来の宗教宗派における懲戒処分が司法審査の対象となるのと同様であつて、当事者が外国人であるとか、外国の宗教に関する処分だからといつて、右審査の対象から除外すべき理由はない。

被告が原告に対する処分は多数決によつて適法に行なわれた旨主張するのは多数者による暴力によつて少数者の原告を圧迫せんとするもので、このような修道会内における多数者に対する少数者の保護は通常裁判所の救済にその道を見出す以外に無い。

7(一)  被告は、日本国内法である宗教法人法によつて設立され、同法に存立の根拠を置く法人であるから、純然たる信仰上の問題は格別、その教会の組織に関しては右法令に特別の除外がない限り、法律問題として審理の対象となるのであつて、原告が被告会員である地位を保有するかどうかは右の法律問題に外ならない。

(二)  カトリツク教会の会員たる地位は単なる信徒と異なり、一面宗教上の身分であるとともに他面当該法人の構成員たる地位であり、その存否は法律上の争訟の対象となり得るものである。被告会員は神のみを対象としその前でのみ生活するのでなく、世俗の信者を前にして説教祭儀を主宰し、時には広く各種慈善事業を営み、教育活動に従事するから、被告会員の地位は全く宗教上の意味を有するに止まらず、一つの社会的地位である。

(三)  更に一九一七年に制定されたカノン法は一つの完結的法体系を成し、宗教的事項をも多々規定するが、大部分は人の権利義務に関する規定であつてこれらの規定が市民法たる性質を有することは疑いない。教会法は修道会会員の身分、人事、財産などについて詳細に定め、会員相互の人間関係を規制することを一大目的としている。純粋に宗教的精神的事項を対象とするのなら法典の形式を採ることさえ不要である。故に、この法の規制を受ける修道会会員の地位は、単なる宗教上の地位あるいは単なる社会的地位に止まらないで既に一つの法律的地位であると断言できる。要するに被告会員の地位は一面宗教上の身分であるが、他面市民法的法律関係に外ならないからこれの存否の確認を求めることは何ら権利保護要件に欠けるところがない。

(四)  そして被告は原告が被告会員の地位を有することを否認し争う。本訴はカトリツク修道者である原告が宗教法人である所属修道会を相手どり自己の修道会会員たる地位の確認を求めるものであつて、法律上の争訟であり司法審査の対象となる。

よつて原告は右地位を保有することの確認を求める。

二、被告の本案前の主張

1  被告会員の地位

被告会員たる地位は、純粋に宗教上の地位であり、法的地位ではないから、これに関する争訟は法律上の争訟ではなく、従つて裁判所は本訴について裁判権を有しない。すなわち、

(一) 宗教法人聖心布教会の会員たる地位と聖職者の地位とは同一ではなく、被告会員たる地位は宗教団体聖心布教会の会員たる地位に附随するのでまさに宗教上の地位の一側面にすぎない。なぜなら、宗教団体は宗教法人法によらなければ存在を許されないのではなく、修道会聖心布教会の修道者が日本に渡来して布教活動をなすにあたり、その活動の便宜のために日本の宗教法人法によつて法人格を取得したのが被告であつて、被告の構成員はすなわち修道会聖心布教会の構成員にすぎないからである。そしてまた宗教法人聖心布教会は、宗教法人法によつて法的根拠を与えられた私的団体であるが、その法人性は、まさに宗教活動上の財産管理をなすを目的として付与されたものであつて、宗教法人法第八五条の趣旨からしても、国家法が宗教活動および宗教上の地位について干渉し、法的効力を付与するという性質のものではないからである。従つて、被告会員たる地位が法的地位であるかどうかは修道会聖心布教会会員の地位が法的地位であるかどうかの判断により決定される。そして修道会聖心布教会会員の地位が宗教上の地位にすぎないことは次項以下に記載のとおりである。

(二) 聖職者の地位に関する紛争が法律上の争訟として裁判所において訴訟の目的となるためには、右地位が宗教法人法に基き定められた規則に明らかにされ、同規則の適用に関し生じた紛争でなければならない。ところが、宗教法人法第一条第一項は会員資格、入退会の要件を規定しないから、聖心布教会規則は会員の地位は「カトリツクの信者で会員名簿に登録されたもの」と規定(第一四条)しているにすぎず、聖職者の地位、定数、職務権限、退会、除名処分についての規定は一切存しない。すなわち、このことは聖職者の地位は純然たる宗教上の地位であることを明らかにしている。宗教団体内の紛争のうち、裁判所が判断できる法的紛争は宗教法人法によつて規制された事項に限定され、宗教団体における信仰、規律、慣習等には裁判権は及ばない。宗教法人法第八五条の規定もこれを示唆している。

(三) カトリツク教信者は聖職者と平信者に二大別され、聖職者は司教、司祭、助祭の三段階の地位に分かれ、下級は上級に従属する(カノン法第一〇八条)。そして、修道会聖心布教会の会員は聖職者で構成されている。聖職者は右修道会の組織である大神学校において修練をなし、聖職者にふさわしい品行をなす者であるとの証明を受けたのち、貞潔の誓いをなして叙階式を経ることによりその地位を与えられる。カノン法第一一一条によれば聖職者は一定の教区または修道会に所属することが必要とされている。

聖職者が独身を守らなければならないのは、自らの家庭の幸せを神にささげ、家庭生活上の諸義務から解かれて人々の救霊に専心し潔白を保つて神に献身せんがためである。特に司祭の地位は神ないしはキリストから授けられるとされ、終始信仰と宗教的教育と儀式にもとづく純粋に宗教上の地位である。司祭は「各自が従属する裁治権者に尊敬と服従を示す特別の義務を負い」、任務を「忠実に果さなければならない」。

修道会聖心布教会への入会は、一年間の修練期間を経たのち、三つの誓願すなわち貞潔、清貧、従順の誓いを行うことによつて許される。

(四) 聖職者はカトリツク教の宗教儀式を執行して神およびキリストの救世のめぐみを信徒にわかち与え、信徒に教義を教え、その信仰生活を指導するのをその権能とする。

(五) 聖職者はカノン法第一一一条に「あらゆる聖職者は一定の教区または修道会に所属することが必要であつて、聖職者が無所属の状態にあることは許されない」と規定しているので、「修道者」となる。従つて、修道会に所属した聖職者は、カノン法に規定する聖職者の義務を果たし、カノン法を遵守しなければならないし、修道会の誓願と規則に拘束される(カノン法第五九二条、第五九三条)。修道者は入会に際し立てた清貧、貞潔、従順の三つの誓願を忠実に、完全に守り、その会則に従つて生活をととのえ、身分の完成につとめなければならない。聖職者と修道者との身分は、双方とも純然たる宗教上の地位を根本とし、それに派生する財産的生活は、すべて霊的生活の目的のために規制を受け、市民法にいう私有財産ないしは市民生活上の利益とは法的規制を異にする。

(六) 修道会聖心布教会への入会は自らの意思に基づいてなされ、退会もまた自由に許されている。右の会員は、当然に退会になる場合のほか、強制退会すなわち除名されることもあるが、この場合についてはカノン法第六四六条ないし第六五三条、典範第一四九条ないし第一五六条に規定されている。

修道会は教理を実践し、教義を宣教する自由な権利を持ち、内部の信仰上の紛争を裁定し、その所属する個人、教会および役員を統制するための裁判機構を設置する権利を有する。修道会会員の地位はすぐれて宗教上の地位にほかならない。

(七) 以上のように修道会聖心布教会会員たる地位は、その地位の取得および喪失、ならびにその地位の性質からみて、純粋に宗教上の地位であり、従つてまた被告会員たる地位も純粋に宗教上の地位である。

(八) 被告会員たる地位は右のように純粋に宗教上の地位であるが、この地位にともなつて非宗教上の権利が生ずることがあるとしても、それは宗教活動の反射的効果にすぎず、その反射的効果の存在をもつて、右会員たる地位の得喪に対する法的介入の根拠となしうるものではない。

(九) 修道会聖心布教会会員の地位がすぐれて宗教上の地位であるところから、世俗の司法裁判所が会員の除名処分に関して、不介入の態度を固持することが政教分離の原則、信教の自由の原則に沿う。

2  カノン法による教会裁判所の専属管轄

本件除名処分はカノン法第六五三条、典範第一五六条に基づいて行われた処分であり、右カノン法においては除名に関する管轄を教会裁判所に属するものとし、また聖座への異議申立制度も設けている。一切の紛争は教会裁判所の専属でありカノン法第一五五二条ないし第二四一四条は民事および刑事の争訟について教会裁判所の手続を規定し、まさに教会法は宗教的な完結法体系である。

従つて右の如く制度の完備されている場合には世俗裁判所はその管轄権を有しないとするのが相当である。

カノン法はカトリツク教会の組織活動ならびに所属者を規律の対象とする法体系であつて、国家や民族とは何のかかわりをもたない国際的性格をもつた宗教上の自治規範である。特別に制約され、かつ専属点な点があつても、それは教会または信者から離脱する自由が確保されているから、何ら日本の法律に抵触することはない。

3  帰国命令と当事者適格欠如

修道会聖心布教会は、ローマ法王を最高の権威者としてローマに総本部を置くカトリツク修道会であつて、アメリカ、フランス、イタリア、オーストラリアほか一一地区に本部を置き、日本管区聖心布教会はオーストラリア地区に所属する。日本管区への修道者の派遣はオーストラリア地区総長の権限である。右地区総長マクマーンは昭和四七年(一九七二年)三月一七日原告に対し、日本管区よりオーストラリアへ帰国命令を下した。これにより原告は修道会聖心布教会日本管区の所属がなくなつているから、従つてまた被告会員でもなくなつた。その後になされた本件除名の除名権者はオーストラリア地区総長であるから、原告が除名無効について被告を当事者とすることは、当事者適格を欠く。

4  被告適格

また、本件除名処分はオーストラリア地区総長が日本管区の役員会の議を経て行い、ローマ本部、ローマ修道聖省およびローマ法王の各承認を経てその手続を完結したのであるから、除名処分の無効を争う訴はその手続に関与するすべての機関を相手にしない限り、宗教法人聖心布教会の地位の確保に効果がない。従つて本件訴訟は当事者適格を欠くのである。

5  世俗裁判所の介入の限度

仮りに被告会員たる地位に関する紛争が法律上の争いとして世俗裁判所の判断の対象となり、かつ、世俗裁判所に管轄権があるとしても、裁判所の宗教団体への無制限な介入は戒められるべきである。憲法第二〇条、第八九条、および宗教法人法第一条第二項、第八五条は信教の自由および政教分離の原則を定めていて、その趣旨によるならば宗教団体たる修道会についてはその自治自律を尊重すべきであり、裁判所が修道会の処分について判断を加える場合にはその審査の限界がきびしく画されねばならない。もし、修道会の除名問題に全面的に裁判所が介入することになれば、国が宗教の領域に足をふみ入れて法典や規則を判断し、規律を指図し、その決定を左右することになり、信教の自由の維持は不可能となり、憲法上の原則を侵すことになる。

除名処分について裁判所の審査のおよぶ範囲としては、除名処分をすることが明らかに公序良俗に反する場合か、被除名者たる会員の地位が不当に奪われる場合に限られると解するべきである。

そして本件の場合については右限界を越える。

(一) 本件除名処分は何ら公序良俗に反しない。

貞潔または清貧の誓いは団体内部の規律であつて、強制的に原告を縛つていない。原告が何らの強制もなく、自由な意思のもとで入信入会した結果、聖職者と修道者の義務を負担したのであり、カノン法第六四〇条によれば、永久誓願者は還俗の恩典を得て修道会より離脱することができるから聖職者と修道者の義務は何ら公序良俗に違反しない。

(二) 本件除名処分は原告の人権を侵害するものではない。原告は経済的にかなり豊かな生活を送つているからである(後記五ノ(三)(4)参照)。

(三) 本件除名処分はカノン法および典範による手続によりなされたが、その手続は詳細かつ慈父的に規定されており、上訴制度も完備しており、権利救済手続としての教会裁判所の制度もある。

オーストラリア地区総長マクマーンの昭和四七年(一九七二年)三月二二日付原告宛通知書(乙第九号証の五)によると、被告は明確に「聖座への上訴権」を告知し、自己を守るための十分な手段のあることを通告した。同年七月二五日付修道聖省からの答書にも最高裁判所に上訴する権利のあることを特に注意している(乙第一九号証)。

原告は右上訴権を放棄し、自ら救済の途を閉じている(後記五2(除名処分の手続)(一〇)参照)。従つて本件除名処分は何ら不当なものではない。

三、本案前の主張に対する原告の反論

1  被告会員の地位

(一) 宗教法人法と宗教団体ならびにその構成員

被告は宗教法人法により法人格取得を認可された宗教団体であつて、対外的に法人格の認められる被告の実体をなすのは、聖心布教会または聖心修道会と称する修道者の集団である。修道者の集団すなわち修道会は、それが未だ法人格を取得せぬ間は一の権利能力を欠く社団に止まり、法人格を取得して対外的に一の人格として現われることになる点は他の種法人と何ら違うところはない。法人格、修道会、修道者の三者は文字どおり三位一体、密接な関係に立ち、修道者個人は法人の実体をなす団体の構成員である。

(二) 宗教法人法は人的構成の点について機関(代表役員、責任役員)の外には言及してなく構成員について規定を欠いている。これは宗教法人の実体を成す団体は社団的性格あるいは財団的性格を帯び宗教宗派により多種多様であるところから、他種の法人のように一様に律することが出来ないため、どんな態様、範囲の構成員の存在を認めるかどうかは、それぞれの宗教団体の要請に即し、自治的定めに任すほうがより適切であり、従つて法は機関についてのみ規定するに止めるとしたまでのことである。宗教法人において機関以外に構成員が存しないと考えること自体が無理であり、これに加えて、宗教法人法第二三条の文理解釈上、同条にいう「利害関係人」に機関以外の構成員を含ましめるのが可能である。

宗教法人聖心布教会と修道会聖心布教会とは、一体不可分の関係にあるので、両者を機械的に分離し、宗教法人格は単に財産保有の便宜に供するに過ぎぬと考えるのは、法人理論にも反する。

被告宗教法人の実体である聖心布教会の自治法規(宗憲)が被告の典範にほかならず、宗教法人上要求される会則は法定の最小限度の事項を定め、除名処分等についての規定が無いのに対し、典範は修道会内部の規律について実質的規制をなす規律であつてこれに修道者の地位について詳細な定めがある。本件は国家内の部分社会の一つであるキリスト教会の自治規範の解釈に関する紛争である。ただカトリツクでは各修道会の自治規範はカノン法という統一法典に由来する特徴があるが、それだからといつておよそカノン法に関する紛争はすべて教会裁判所に専属するというのは、現実に教会裁判所が設置されていない日本においては制度的前提を欠く空論である。

日本とローマ法王庁との間では特別の協定がないから、カトリツク修道者(内外国人何れも)に関する法的争訟について、日本の裁判権が排除される理由がない。

(三) 聖職者と修道者との区別

本件で直接に問題なのは、「修道者」であつて、「聖職者一般」ではない。修道者は聖職者と異なり、または一歩を進めて修道会という共同体の構成員であり、共同体すなわち人と人との共同生活関係に伴なう地位である点で、概に一つの法律関係である。修道者が法的地位であることは、カノン法第四八七条以下の規定をみれば聖職者一般の場合より以上に明瞭である。本件除名処分に関するカノン法第六五三条も原告が修道者であるからこそ、その解釈、適用の当否が争われるのである。被告は問題の所在を取り違えている。

カノン法第一一一条によると、修道会に属する聖職者がすなわち修道者に外ならない。ただ聖職者一般は修道者のような身分、地位の剥奪について何ら規定されてなく、その意味では終身的な、更には宗教上の身分と考えることができるかもしれぬ。仮りに原告が修道者(修道会員)の地位を失なつても、依然聖職者の身分を失なうのではない。

2  カノン法と世俗裁判所の救済

カノン法に市民法的性格がないとしても、カノン法が法として客観性を主張するからには、裁判官がその解釈、適用をなすことができる。カノン法がカトリツク修道会の自治規範として日本国内法上存在することは認めないことはできないが、それ以上カノン法自体が超憲法的効力を有すると解することはできない。

本件は日本国憲法を頂点とする法体系の下で解決されるべく、今外国人とは言え一個の人間が不当な処分を受け、救済を裁判所に求めて来たとき、格別の理由無く救済を拒否するのは、憲法の下における個人の尊厳・自由・平等の基本理念にも反し、「教会」と言う一つの社会内に治外法権を容認する結果となる。

教会或いは教会の権威に便乗している団体が、民事のことに介入し、憲法によつて保障された生命、財産、裁判に関する自由を奪うことは絶対許されるべきでない。

教会は、世俗裁判所がカトリツク結婚問題に介入することを絶対許してない(カノン法第一〇一六条、第一九六〇条)が、誓願の霊的問題でない限り、修道会の問題に介入することを認めている(カノン法第一五五三条)。本件除名通知によると、誓願はそのまま残る。カノン法第六五三条の処分は正式裁判がない限り本当の除名ではない。従つて、聖心布教会権力者が自分達の不法な権力濫用を認めさえすれば、バチカンと全く関係なく解決の道が開かれる。

3  帰国命令と被告の当事者適格

除名処分については、オーストラリア地区総長及び現地の布教会の代表役員にその権限があるから現在の代表役員ヨゼフ・バークにその権限がある。右総長マクマーンから昭和四七年(一九七二年)三月一七日にオーストラリアへの帰国命令が出されたことを認めるが、原告がその命令により聖心布教会の会員でなくなつたことを否認する。帰国命令が出ても会員資格を喪失しない。宣教師の転任は単位修道会に属する会員の当修道会からの除名には何ら関係しない。

被告は本件除名処分をしたのはオーストラリア地区総長マクマーンであると主張するが、右処分をしたのは地区総長マクマーンと日本管区長、被告代表役員バークの両名であつて(乙第九号証の五)、両名共除名処分権限を有する。(典範第一五六条、第一六条(b))

4  被告適格

原告は本件除名処分の無効を前提に所属修道会内での地位存在確認を求めているのであつて、それには日本国内で一つの人格として存在する被告(修道会)を相手取り訴求するのは当然である。従つて被告に当事者適格について欠けるところがない。若しも当該処分が有効であると、原告は聖心布教修道会派の中にあつては、世界中何処でも修道会員であることが出来ない。

5  除名処分により原告のような終身誓願者が宗教的社会的命運を制せられるのは人権侵害となる。

仮りに当事者が教会法上の手続手段を尽すことが司法裁判所への出訴の条件であるとしても、ローマ修道聖省の確認により、原告に正当な救済の道が与えられないまま不当に救済の道を閉された以上、原告は既に出訴の条件を充している。

四、請求原因に対する被告の認否

1  請求原因事実1のうち、原告がオーストラリアの国籍を有し、昭和二四年(一九四九年)七月二四日カトリツク司祭の資格を得たこと、従つて原告は終身誓願者であること、原告は昭和二七年(一九五二年)(ただし二月でなく三月)に来日したこと、昭和三八年(一九六三年)から昭和四一年(一九六六年)までロンドン大学に留学し、帰日後日本国に居住していることは認める。

2  請求原因事実2は認める。聖心布教会は一八五四年フランスの国イスダンにおいて、ジユリオ・シユワリエ神父によつて設立、一九四九年日本に渡米した。アーチボルト・ウイリアム・ブライソン等は、昭和二五年(一九五〇年)五月聖心布教会を設立し、六月一六日名古屋裁判所において法人登録を完了した。そしてブライソンらは昭和二七年(一九五二年)二月頃本部建物を完成し名古屋において布教活動を始めた。

3  請求原因事実3は、被告が、宗教上ローマ法王庁を頂点とするキリスト教カトリツク派に属し、同派の修道会聖心布教会の日本管区修道会であつて、カノン法および典範によつて秩序が維持される団体であること、および、修道会聖心布教会の会員の地位の喪失が被告会員の地位を失わしめることは認める。

4  請求原因事実4は、原告が被告の会員であつたことは認めるが、そのほかの事実は否認する。

5  請求原因事実5は、(一)を認め、(二)を争い、(三)および(四)を否認する。原告に対しオーストラリアへの帰国命令がなされ、原告が露ほどもこれに従う意思がなく説得が効を生じなかつたので、除名処分となつた。

6  請求原因事実6は争う。

7  請求原因事実7は争う。

五、本案に関する被告の主張

仮りに原告に対する除名処分が法的規制のもとにあり、司法審査の対象となるとしても、右除名処分はカノン法および聖心布教会典範に基づいて適法に行われ、除名処分の理由もカノン法の要件を具備している。

1  (除名処分の要件)

(一) 原告の除名処分はカノン法第六五三条、典範第一五六条に拠つてなされたものである。

(二) 右各条項は除名処分の要件として、「重大な外部的醜聞、もしくはコムニタスにとつて急迫する重大な害悪がおよぶおそれのある場合」と規定する。「重大な外部的醜聞」は教会法上の重大な犯罪がたとえ一回でも犯され、修道会の内部または外部に周知しはじめられた場合をいう。「醜聞」はゆるやかでよく性的不品行で足りる。「急迫する重大な害悪」とは、経済的、財産的、道徳的、精神的な害悪が当該修道院に短期間内にさしせまつた状態をいう。

(三) 原告には「重大な外部的醜聞」に該当する次の事実が存在する。

(1) 原告は、昭和四四年(一九六九年)ころから山本悦子と情交関係にあり、昭和四七年(一九五二年)一月ごろ同女を懐胎させ、同女の出産準備のために自己名義で原告住所地所在の土地建物を購入した。

右事実は原告がなした貞潔の誓い、即ち、生涯を終るまで結婚せず貞節を保持するとの誓い(典範第六四条)に反するものであり、右誓いを守ることを定めたノカン法第五九三条に違反する。

そして右事実は山本悦子の親族、被告会員、被告従業員らの知るところとなり、やがては信徒間にも知れわたつて行く危険が十二分に存在した。

(2) 右山本は昭和四七年(一九五二年)二月ごろその胎児を原告に無断で中絶したが、原告は、テーラー会員が山本に原告のことを中傷したため山本が原告の子供を生むことを断念して中絶をしたものと推定し、テーラーの行為を殺人に当るものと考えて同人を殺人罪で告訴しようとした。

右告訴は違法なものでそれ自体で「醜聞」であると同時に、前記(1)の事実を「外部的」なものとする事実である。

(3) 原告は、(イ)オーストラリアの地区総長が昭和四三年(一九六八年)来日し、原告に対し、被告の会より退去し、オーストラリアへ帰国するよう命じたが、これを拒否し、(ロ)昭和四三年(一九六八年)一〇月ごろ日本管区長代理アスキユーの許可なくオーストラリアへ旅行し、(ハ)昭和四四年(一九六九年)九月ころオーストラリア地区総長の原告に対するオーストラリアへの帰国命令を拒否し、(ニ)同年一二月日本管区長の許可なくオーストラリアへ旅行し、(ホ)その際オーストラリアにおいてオーストラリア地区総長マクマーンから、そのまま六ケ月間オーストラリアに滞留すべき旨の命令を受けたがこれを無視して帰日し、(ヘ)昭和四六年(一九七一年)オーストラリアを旅行中、日本管区長の許可を得ずに旅行先を変更してヨーロツパへ行つた。また、(ト)教会法による上長者の使令勧告を猿芝居と称し、協力せず修道会における共同生活の秩序を乱した。

右各事実は原告がなした従順の誓い、即ち、カノン法に従い教会の規律に基づく上長者のすべての命令に服従するとの誓い(典範第七二条)、右誓いを守ることを定めたカノン法第五九三条、および旅行の時はその日程、ルートなどについて上長者の許可を得なければならないとする典範第八十四条に違反する。

(4) 原告は昭和四二年(一九六七年)四月ごろより○○大学講師として月額四万五千円の給料を、また昭和四四年(一九六九年)ころより○○○の通訳として、さらにまた英会話の教師をするなどして収入を得たが、この収入を上長者に明らかにすることなく自己のために使用し、自室用のカーペツト、パネルヒーターを購入し、原告専用のテレビ、電話器を設置した。

右事実は収入はすべて上長者に報告し教会の収入となしその使途については上長者の監督を受け清貧にふさわしい生活をしなければならないとの典範の規定(第五八条、第六〇条)に違反し、右の生活態度は原告のなした清貧の誓い(カノン法第五九三条、典範第五一条、第五三条、第五八条)に違反する。

(5) 以上のような原告の管区長および宗教の権威に対する無視の態度は修道会および非キリスト教徒に明らかな事実となつていた。

(四) 原告には「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪」に該当する次の事実がある。

(1) 原告は昭和四六年(一九七一年)一〇月ころオーストラリア地区総長に対し、会員らの性格を口ぎたなく非難し、スキヤンダルを暴く報告書を提出し、オーストラリアと日本の新聞に公表するとおどした。

(2) 原告は同じころ司祭館の改築に反対する書面を管区長の許可なく配布し、同書面において、カノン法と典範に奨励される会員の共同生活は必要なく、会員は個々人の家を持つべきだ、お金を所有することは自由を与え、寛大な精神を養うと主張し、また、オーストラリア地区総長に対し二〇〇〇万円の交付を要求した。

(3) 原告は、既に(三)項(2)において記載したとおり、昭和四七年(一九七二年)二月ころ、テーラー会員を殺人罪で告訴しようとした。

(4) オーストラリア地区総長は昭和四七年(一九七二年)三月一八日原告に対しオーストラリアへの帰国命令を伝達しようとしたが、その際原告は警察官を教会建物に立ち入らせた。

(5) 原告は被告会員としての業務である布教活動および英国アカデミーの仕事を全くせず、自分勝手な行動をした。

(五) 以上のように原告のカノン法および典範に違反しかつ共同生活を乱す行為により、修道会としての被告の規律は著しく乱されており、原告が地区総長の帰国命令に従わない場合には修道会会員の共同生活ひいて被告の秩序は破壊されることが明白であり、その危険性は原告の処分を通常処分によることができない程度にさしせまつていた。

2  (除名処分の手続)

(一) 修道会聖心布教会オーストラリア地区総長はその地区(日本管区を含む)における会員の除名権限を有している。

(二) 右オーストラリア地区総長マクマーンは、昭和四七年(一九七二年)三月七日、その諮問機関であるオーストラリア地区役員会から、原告を除名する場合はこれを承諾し、その手続については右地区総長に包括的に委任する旨の決議を受けたうえで同月一一日来日した。

それは原告が昭和四四年(一九六九年)オーストラリアへの帰国、滞留命令を無視しており、日本の修道会より出て、アパートに居住するようにとのオーストラリア地区長の命令も無視し、修道者の心を失つて自分の勝手気儘な生活を送つていたことはオーストラリア地区の地区長ならびにその役員間には、公知の事実であつて日本の現状からみて当然に除名の可能性があるので自主的に議題となつたのである。

(三) 右地区総長マクマーン、日本管区長バークおよびブライソンらは昭和四七年(一九七二年)三月一一日東京在住の神父、カノン法学者あるいはオーストラリア大使などと相談したうえ、同年三月一三日名古屋市において日本管区役員会議(以下単に「役員会議」という)を開催し、全員一致で次の事項を決定した。

(1) 原告をオーストラリアに帰国せしめること

(2) カノン法学者の判断によれば原告は当然に退会すべきである

(3) 退会の時期と方法については管区長と地区総長の判断に委ねること

(四) 右地区総長マクマーンは、右決議に従つて、三月一四日、原告に対し、原告が反省しその行動を改めるべく戒告をなし、オーストラリアへの帰国をすすめ、さらには帰国を命じ、原告がオーストラリアへ帰国しなければ除名する旨通告した。

しかるに原告は右帰国命令に従うことを拒否した。

管区長バークもまた三月一五日原告に対し戒告したが原告はこれを拒否した。

(五) オーストラリア地区総長マクマーンは三月一七日、第一証人をバーク神父、第二証人をマクドウグル神父として、原告にマクマーンを正当な権限ある上長者であることを確認させたうえで、カノン法第六五三条に基づく第一回の戒告をなした。

(六) 右地区総長マクマーンは三月一八日原告に対しオーストラリアに帰国することを命じ(前記1(四)(4)参照)、同時にカノン法第六五三条に基づく第二回目の戒告をした。

(七) 役員会議は三月一九日、(五)(六)項記載の戒告が適法に行われたことを確認し、同月二〇日、原告がオーストラリアに帰らなければ、宣教師としての許可を取消し、同月二二日にカノン法第六五三条によつて除名することを決議した。

(八) オーストラリア地区総長マクマーンが三月二二日出席して役員会議を開催し、カノン法の手続に合致していることを確認したうえでカノン法第六五三条により原告を除名する旨の決議をした。

(九) 地区総長マクマーンは同日右決議に従つて原告を修道会聖心布教会から除名せしめる旨の処分をなした。

(一〇) 同日付で原告に対し除名の通知がなされた。同年三月二五日除名通知を再度行つた。通知書には改心すれば会に復帰する道のあること、原告がカノン法により公式に異議の申立をなすことができる旨の告知が含まれていた。不服の場合は教会裁判所に提訴することができ、手続は第一五五二条以下に詳細な規定があるにかかわらず、原告はカノン法による異議の手続を行なわなかつた。右は原告が自ら正当な権利を破棄したのである。

(一一) ローマ修道聖省は同年四月一四日除名処分を裁可し、原告の聖職の停止を宣言した。

(一二) オーストラリア地区総長は同月二四日同地区役員会に原告の除名について報告し、右役員会は全員一致で右を承認した。

(一三) 原告は五月一二日付書面修道聖省に対し除名の再審をもとめたが、修道聖省は七月二五日に一九七二年四月一四日付除名決定を再確認し、原告に対し、オーストラリアへの帰国命令に従うべく忠告した。

(一四) 除名はローマの修道聖省の裁定により効力を生じ、除名理由の告知は要件でなく、除名通告は現場における退会の処置にとどまる。

(一五) 宗教法人聖心布教会の規則には、除名に関する規定や退会手続規定がない。これはカノン法と典範により宗教団体としての修道会聖心布教会より除名されることを前提としていることを意味する。聖心布教会の名簿より削除するのは、規則第九条に「この法人の事務の決定は責任役員の協議により決定される」と規定されているので、責任役員の協議にもとづき削除されるのである。日本管区長バークは「事務の総理」を行う者であつて、除名権者ではない。

3  仮りにオーストラリア地区総長による除名が効力を有しないとしても、日本地区は昭和四五年(一九七〇年)に管区の位置づけを与えられ、オーストラリア地区の下にあるが、日本管区長は、固有の代理権限を有するものとされ、教会法第六五三条、典範第一五六条にいう上級上長者に該当し、その管区の会員を除名する権限を有する。よつて日本管区長バークは日本の役員会の同意を得て原告を除名することができる。そして右管区長バークは第2項(三)ないし(九)記載のとおりオーストラリア地区総長マクマーンとともに原告の除名に関与し、日本管区役員会は右除名に同意した。従つて、仮りにオーストラリア地区総長がうけた事前の包括的受任と事後の承認という一連の手続が、教会法第六五三条及び典範第一五六条の「同意」にあたらないとするならば、原告は日本管区長ヨゼフ・バークの除名処分によつて除名された。原告が現地にとどまる限り、日本管区長と役員会の支配権が事実上原告に及ぶことは当然で、重畳的に手続がなされたことは、原告の人権の遵重上原告の利益に行なわれた。

なお、名古屋司教区相馬司教の同意は、手続上必要条件でないが、日本管区長は原告の除名に先立ち事実を報告し、右司教の同意を得た。

4  カノン法は、教会裁判所の設置を規定し、被除名者の救済のための被除名者の弁明権を確保し、十二分の権利回復手段と異議申立制度を定めているにもかかわらず、原告はその手続を何らしなかつたのであるから、本件除名処分は適法に確定した。

六、被告の主張に対する原告の認否

1  主張事実のうち(一)(二)は認める。ただ、被告の「重大な外部的醜聞」「急迫する重大な害悪」の解釈は独断である。

「重大な外部的醜聞」とは、修道者が修道院の中またはその外で重大な罪を犯し、このことが世間一般に知れわたつたか、知られぬよう隠ぺいすることが最早や不可能となつた場合、すなわち罪を犯した修道者が、善良な世俗の人々の尊敬を失なうことが確実である場合、「コムニタス(修道会)にとつて急迫する重大な害悪がおよぶおそれのある場合」とは、教育や医療事業にたずさわる修道会の評判を失墜させるようなこと、官憲の権力により修道会の活動が抑圧され、或いは財政的損失を蒙り、罰金訴追の脅威を受けるなどである。そしてこれらは緊迫したもの、すなわち当該会員を立去らせねば、現実に生ずることが確実でなければならず、且つ危険は単に修道会員の一人二人に対するのでなく、修道会自体の存立を脅やかす程度でなくてはならない。更に、退会が修道会を脅やかす醜聞とか損害を避けるための唯一の手段であることを要し、もし会員を他の施設へ送ることで足りるなら、その者を世俗へ戻すべきではない(リンカーン・ブスカレン、アダム・シー・エリクス共著カノン法注釈三一八頁)。

(三)(1)記載の事実中、原告が貞潔の誓いをなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告には貞潔の誓いに反する事実はない。被告の主張する女性との交際は、世人の目からみて、非難を呼ぶ非道徳的なものでなく、むしろ良い人間関係を保つていた。

(三)(3)のうち原告が従順の誓いをしたことは認める。

(三)(4)のうち原告が昭和四二年(一九六七年)四月ころより○○大学の講師をしていること、○○○の通訳をしたこと、英会話の教師をしたこと、それらにより収入を得たこと、および原告が清貧の誓いをしたことは認める。修道者の収入取得は慣行的に認められている。

(四)(2)のうち司祭館の改築に反対する書面を管区長の許可なく配布したことは認めるが、右書面は会員間にのみ会議の資料として配つたものである。

被告が主張する原告の非行は、第六五三条との関係で採るに足らない。被告はカノン法を正当に理解しないまま原告を追放する道具に用いた。これは懲戒権の濫用であつて、宗教団体における問題であるが故に、見逃がしてよい筋合はない。

2  主張事実2のうち(一)は認める。しかし、本件除名処分はオーストラリア地区総長が単独でなしたのではない。

(一〇)のうち、昭和四七年(一九七二年)三月二五日付で原告に対し除名の通知がなされたことは認める。

そのほかの事実は否認する。

貞潔の誓いに反したことは本件除名処分の理由とはされていない。

本件除名権者がマクマーンであつてバークでないから、マクマーンは現地名古屋の被告の役員会の議により同意を得たのみであるが、右役員会は現地上長者バークの諮問機関であつて、上級上長者であるマクマーンの諮問機関ではないから、除名処分が諮問機関の同意を得ずになされた点で手続違背が存する。

3  主張事実3は日本管区長が原告の上級上長者に該当し、除名権限を有することは認めるが、そのほかの事実は否認する。

除名権者をバークとみても、名古屋司教区の相馬司教(法文上の裁治権者に当る)の同意を得ていない。除名権者について首尾一貫しない被告の主張からすると、むしろ除名処分の形骸はあつても、正当な除名としては不存在とするのが適切であつて、何れにしろ、処分の無効、不存在を前提とする原告の請求は確認の利益が肯定される。

定規を無視してなされた宗教団体の独断専橋の行為により権利を侵害された者が救済を与えられるべきことは動かしがたい原理であつて、本件修道者の身分確認を求める請求は認容されるべきである。

第三  証拠<省略>

理由

第一(本案前の主張について)

1  被告会員の地位

裁判所が裁判できるためには法律に特に定めがないかぎり法律上の争訟でなければならない(裁判所法第三条)。被告は本訴の対象である被告会員たる地位は純粋に宗教上の地位であるからこの地位についての争訟は法律上の争訟に当らないというのでこれについて判断する。

法律上の争訟とは法を適用することによつて解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいい、法上保護されるべき権利義務に関する紛争はすべてこれに該当するものである。

(一)  被告が宗教団体であつて日本の宗教法人法に拠つて法人格を付与されたことは当事者間に争いのないところである。

<証拠>によれば次の事実を認めることができる。

(1) 修道会聖心布教会は一八五四年にフランス国イスダンにおいてシユリオ・シユワリエ神父によつて設立された修道会であり、カトリツク教会に属し、イエズスの「聖心」への愛を広め、カトリツク教の教義を布教することなどを目的とする宗教団体である。現在では、ローマに総本部を設け、アメリカ、フランス、オーストラリアなど世界各地に本部を設置して各国で布教活動を行つている。そしてその組織はカノン法および聖心布教会典範によつて規律されている。

(2) 修道会聖心布教会の宣教師は昭和二四年(一九四九年)から日本において布教活動を始めた。日本においては「聖心布教会日本地区」が置かれ日本管区となり、オーストラリア地区本部に所属する。

(3) 宗教法人聖心布教会は日本において修道会聖心布教会が我国の宗教法人法によつて法人格を取得したものである。すなわち、修道会聖心布教会の会員であるアーチボルト・ウイリアム・ブライソンらは、昭和二五年(一九五〇年)六月、宗教法人令に基づき宗教法人聖心布教会を設立し、宗教法人法が昭和二六年施行された後、昭和二八年四月三日に同法に基づいて改組し、現在の宗教法人聖心布教会となつた。

(4) 宗教法人法第一二条によれば、宗教法人設立にあたつては、その目的、名称等を記載した規則を作成することが必要とされており、この規定に従つて作成されたのが宗教法人「聖心布教会」規則(乙第二号証)である。従つて、右規則は宗教法人聖心布教会を規律し、同規則によると、その名称に「聖心布教会」を用い、目的を修道会聖心布教会と同じくし、また、同規則の「起源と沿革」の章においては修道会聖心布教会の沿革を記載している。

(5) 以上から被告宗教法人聖心布教会は宗教団体聖心布教会が日本において法人格を取得した宗教法人であり、従つて、被告会員は右宗教法人の構成員であり、かつ宗教法人格を付与せられた聖心布教会すなわち法人の実体をなす宗教団体の団体員であることになる。被告会員の地位は宗教法人の構成員であると同時に宗教団体の団体員である。宗教法人法は宗教団体に法人格を付与し、宗教団体は法人となる前も、法人となつてからも、その実体の宗教団体そのものに変化はなく、同一性を保つており、宗教団体は宗教活動を主目的とし、この活動に従事する者を人的要素とする団体で、公衆礼拝の施設を備える単位団体またはその団体を包括する団体である(宗教法人法第一条第二条)。法人会員と宗教団体構成員とは地位上これを分離できない。

右に反する被告の宗教法人聖心布教会員の地位は宗教団体聖心布教会の会員たる地位に附随しまさに宗教上の地位の一側面にすぎない旨の主張はこれを採ることができない。従つて被告会員たる地位が法的地位であるかどうかは修道会聖心布教会員の地位が法的地位であるかどうかの判断により決定されるとは言えない。

(二)  宗教法人法は規則に規定すべき事項をほとんど宗教または宗教団体自体に関しない事項に限定し、宗教または宗教団体自体に関する事項は認証の対象としなかつた(同法第一二条第一項)。認証の対象とすることは政教分離の原則(憲法第二〇条)に反するからである。政教分離の原則により、国家は宗教、宗教団体自体の事項には公序および公共の福祉に反しない限り関与しない(宗教法人法第一条第二項、第八四条、第八五条)。

宗教法人は宗教団体がなつた法人である。一体の組織体としての宗教法人の中にはおのづから法人としての性質と宗教団体としての性質とが融合している。前者は宗教法人法が関与する面で後者は宗教法が支配する面である。法人性の面は法律の規定領域で、国は宗教法人の目的達成のための業務、事業のうち法人性に属する事項に対し法令を制定する。

宗教団体性の面は宗教法が支配するところ、その宗教法が、日本の純粋国内法でない渉外法規であつて、裁判法規をも包含する法体系である場合に、日本においてその適用が問題になるときには、最高法規である日本国憲法の下における選択法則としての法例の適用のあるのは当然である。殊に憲法の公序規定、法例第三〇条に規定する公序良俗、民事訴訟法第二〇〇条第三号に規定する日本における公序良俗などの公序条項に違反しないかどうかが問題になる。

宗教法人法は、政教分離の原則に拠つて、宗教法人の規則に定むべき事項として、代表役員、責任役員など宗教法人の法人性事項を規定し、聖職者、司祭、信者など宗教法人の団体性事項を規定してない。憲法その他の法律は、宗教平等の原則を採り保護としては信教の自由を保障し、制限として政治上の権力の行使の禁止その他公序を規定し宗教団体性の事項を規制している。この宗教平等原則について日本は、憲法第二〇条に「何人に対しても」信教の自由を保障することを明記し、その下の法令もその趣旨に基き、内外平等を徹底している。

宗教法人法は、同法第一八条第六項に、「代表役員及び責任役員の宗教法人の事務に関する権限は、当該役員の宗教上の機能に対するいかなる支配権その他の権限も含むものではない」と規定し、宗教法人自体の内部関係に関与しない趣旨を明らかにしている。

そして、宗教法人は、宗教法人の法人性事項の関連事項として宗教団体性事項を定めた場合にその事項を規則に記載しうることを定めており(宗教法人法第一二条第一項第一三号)、<証拠>によれば聖心布教会規則に右地位についての記載されてないことが認められ、このことは被告の聖職者の地位は宗教法人法に基き定められた聖心布教会規則に明らかにされ、同規則の適用に関して生じた紛争でなければ訴訟の目的とならない旨の主張に沿うようであるが、しかし、右規則に記載のないことから直ちに裁判所の訴訟の目的とならないことになるのではない。規則に規定したときは宗教団体が規則にあらわれたに過ぎず、規則に規定してないときは宗教団体が規則にあらわれてないというに過ぎないから、規則に記載されているかどうかの形式により訴訟の目的となるかどうかを決めることはできない。その事項の実体が純粋の宗教上の事項かどうかによつて訴訟の目的になる範囲が決定されるから、被告の右主張を採ることができない。

(三)  被告は聖職者特に司祭の地位が宗教上の地位であるので裁判の対象とならない旨詳細に論ずるが、本件は修道者の除名処分を問題としているので、聖職者の地位が宗教上の地位であることによつて本件訴訟の争訟性を否定できないから、被告の右主張を排斥する。もつとも、聖職者は修道会に所属し、本件処分が修道者に対する処分であることは被告も自認するところである。そして被告は聖職者と修道者との地位は、ともに純然たる宗教上の地位であるので、被告会員の地位の得喪について世俗法従つて世俗の裁判所の介入を許さず、このことは政教分離の原則・信教の自由の原則に沿う旨力説する。わが憲法が右原則を採つており内外平等主義に立つていることは前説示のとおりであるが、このことは世俗裁判所の介入を排斥する根拠とならない。宗教団体はその内外を問わず、憲法上の保護を受け、公序条項その他の制限に服する(憲法第二〇条)から、憲法、法例、民事訴訟法、宗教法人法の支配を受け、我国裁判所は我国の地域社会において活動する宗教団体に対し右法の範囲内において法を適用し裁判できる。従つて我国の裁判所はその地域社会において活動する宗教団体である団体員ひいて被告会員の地位について右法の範囲で裁判できる。

(四)  本訴における被告会員たる地位が原告の法利益とどの程度の関わりを有していたかを見る。

<証拠>によれば、次のように認められる。すなわち、被告会員は、修道者として、世俗の信者を前にしてミサ聖祭などの祭儀を主宰し、また説教をなし、時には広く各種の慈善事業や教育活動に従事している。修道者は神に仕える者として右のような種々の活動をなすのであるが、またそれ故に修道者は世俗上も右のような祭儀をなし、あるいは慈善事業や教育活動をなすに相応しい社会的地位が与えられている。また、カノン法によれば、被告会員は、修道者として、共同生活を求められているが、これは修道者にとつて、一つの生活上の利益となつている。そして原告は本件除名処分時には名古屋市北区七夕町一丁目五五番地所在の被告所有建物である司祭館内に居住していた。さらにまた、カノン法第一一八条は聖職者の権利として品級権、教会裁治権、教会禄および教会における恩給を得る権利を定めている。

原告が被告会員たる地位を喪失した場合には、右のような社会的地位および生活利益をすべて失わなければならない。また、被告が実質的に修道会聖心布教会の日本支部であることから、原告が有していた修道者あるいは聖職者としての諸権利をも失うことになる。

右の社会的地位および生活利益は原告にとつて重大な法的利益であるから、それらは我国法により保護されるべき利益であると判断される。従つて、被告会員たる地位に関する本件争訟は法律上の争訟であり、裁判所は判断をなしうる。

(五)  なお、被告は宗教上の地位に伴い非宗教上の権利が生じてもそれは宗教活動の反射的効果にすぎないと主張するが、反射的効果として生じた非宗教上の利益であつても、その種類性質等から判断して重要なものは法上保護すべき利益となし得るところである。そして既に見たように、被告会員たる地位の喪失に伴つて原告に生じた不利益は法により保護されるべきものであるから、右被告の主張は採り得ない。

2  カノン法による教会裁判所の専属管轄

(一)  被告はカノン法第六五三条、典範第一五六条に基いて除名処分を行い、右カノン法において、除名に関する管轄は教会裁判所に属し、その手続、制度が完備されているから教会裁判所に専属する旨主張する。しかし、カノン法第一九六〇条によると、受洗者間の婚姻訴訟に対し教会裁判官の固有独占的管轄権を認めるが、その他の事項については同法第一五五三条に誓願者の霊的事項その他について固有独占的管轄権を規定するに止まり、同法第六五三条の処分を明示していない。また、カノン法において除名処分について救済制度を規定していることは日本裁判所の裁判権を否認することにならない。

(二)  本訴請求は被告会員たる地位の確認を求めるものであるが、このような団体の会員であるかどうかについて争われている場合は、その団体の組織の形成の問題であるから、その団体の実体を支配する法とその団体に権利能力を付与した法の適用がある。そして法人格はその法人が設立にあたつて準拠した法によつて定まる。既に見たように、宗教法人聖心布教会は世界的団体である修道会聖心布教会が日本において我国の宗教法人法により法人となつたものであり、宗教法人法第一条、第四条により法人となつた宗教団体は、「礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務および事業を運営することに資するため、法律上の能力を付与されている。従つて被告はカノン法および典範により支配され、法人格を付与された宗教法人法の適用をうける。

カノン法はカトリツク教会法の基本法典であつて、一九一七年公布され、翌年から施行された。同法典は、その内に総則・人・物・訴訟手続・犯罪および刑罰の五巻を有し、全巻二四一四条におよぶ包括的な一大法典である。同法典はバチカン市国の法源である点でバチカン市国の地域社会に妥当する法である。他方では対人的には世界各国のローマ・カトリツク教の世界的団体を規律する世界宗教法である。この特殊社会の法、特に宗教法と国家法との関わりを見るに、現在我国においては、信教の自由および政教分離の原則をとり(憲法第二四条、第八九条)、宗教法を排除するものではないばかりでなく、憲法で保障された信教の自由は尊重される(宗教法人法第一条第二項、第八五条)から、カノン法上の信教の自由は尊重される。他面我国内で活動する宗教団体は等しく、宗教法人法その他の日本国法の規制の下にあり、カノン法も他の宗教法と同様にこの規制を排除することはできない。カノン法は、我国法に抵触しない限りにおいて、日本においてその宗教団体の自治規範として妥当する。

従つてカノン法が宗教的完結法で国際的性格をもつ自律規範であることによつて、本件被告会員の地位の確認について我国の裁判所に裁判権がないと断定できない。この点に関する被告の主張も排斥する。

そして一件記録によれば被告はその主たる事務所を名古屋市北区に置くことは明白であるから、本件については、民事訴訟法第一二条第一項、第四条第一項により当裁判所に管轄がある。

3  帰国命令と当事者適格

被告は、原告が本件除名処分の前に帰国命令により被告会員たる地位を喪失したから被告には当事者適格がない旨主張する。しかし、原告の請求は除名処分前地位が喪失してなく、除名を無効として被告の会員たる地位の確認を求めるものであるから、被告においてこれを争う以上は被告に当事者適格があると言わなければならない。原告が被告会員たる地位を喪失した理由は被告適格を左右するものではない。

4  被告適格

被告は本件除名処分に関与した機関のすべてを相手方としなければならぬ旨主張するが、本訴は被告会員の地位の確認を求めているのであるから、除名手続関与者全員を相手方にする理由がないので被告の右主張を排斥する。

本訴は宗教法人聖心布教会を被告としてその会員の地位を保有することの確認を求める訴である。そして当事者の主張によれば、被告会員たる地位は修道会聖心布教会の会員たる地位の喪失により当然失われること、原告は修道会聖心布教会から除名されたこと、そして原告は本訴において右除名処分の効力を争つていることが明白である。そこで、原告が宗教法人聖心布教会を被告として選択したことが適法であつたかどうかについて検討する。

既に見たように被告宗教法人聖心布教会は宗教団体聖心布教会が日本において法人格を取得した宗教法人であるから、被告に対する訴の実体は法人格を有する宗教団体聖心布教会に対する訴であるが、日本の地域社会において法人格を取得した世界的宗教団体の団体員は、その団体から不法に除名され日本において宗教活動を行うことができなくなる結果に対し、日本の法人格を取得した右団体を相手方として救済を求めることができる。日本地域社会において会員の地位を保持し宗教活動をするに有効適切であるからである。

従つて本件において原告が宗教法人聖心布教会を被告としたことには何ら不適法なところはない。

5  世俗裁判所の介入の限度

被告は、憲法および宗教法人法は信教の自由および政教分離の原則を定めているから、その趣旨によれば、裁判所が宗教団体である修道会の除名処分について判断する場合には限界があり、本件の場合はその限界を越える旨主張する。

確かに憲法第二〇条、宗教法人法第一条第二項は信教の自由および政教分離の原則に関する規定を設けている。特に宗教法人法第八五条は同法の適用に際して国家権力が宗教上の事項あるいは宗教上の人事に干渉してはならないと定めている。そして本訴請求は当事者の主張によれば宗教団体の会員たる地位の確認を求めるものであり、その争点は除名処分の当否にある。除名処分は一つの人事権の行使と考えられるが、人事は組織の根幹をなし、これに国家が自由に介入できるとするならば、その団体の国家からの独立性は完全に失われてしまうであろう。従つて宗教団体の人事について国家が介入することは慎重でなければならない。このことは裁判所が具体的な争訟に関して審理および判断の形で介入する場合であつても同様である。

当裁判所は、本件において問題となる除名処分が憲法に規定する宗教の平等保護、信教自由の原則、政教分離の原則、基本的人権、および法例第三〇条に規定する公の秩序または善良の風俗すなわち渉外公序、民事訴訟法第二〇〇条第三号の公序良俗に反するおそれがあるかどうかによつて裁判所が介入しうるかどうかを判断し、その有効無効を判断すべきであると解する。

本訴について検討する。

<証拠>によれば、原告は名古屋市所在の司祭館に居住し、修道会聖心布教会所属の司祭として世俗の信者を前にしてミサ聖祭などの祭儀や説教を行う権限を有し、時折りにこれをなしていたこと、原告はまた聖職者としての権利としての品級権、教会裁治権、教会における恩給を得る各資格を有していたこと、さらにまた、原告は司祭として社会的地位を有していたこと、本件除名処分が有効であれば原告は右の住居、権限、資格および社会的経済的地位をすべて失うことの各事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

また、原告は昭和二四年(一九四九年)カトリツク司祭となり、終身誓願者として、今日まで修道者生活を送つて来たこと、そして昭和二七年(一九五二年)に来日し、その後は昭和二八年(一九五三年)から約四年ロンドン大学に留学した期間を除いては日本に居住していることは当事者間に争いがない。

以上からすると本件除名処分は、修道者として三〇年近く生活し、今後も修道者として生活して行こうとする原告にとつて精神的にまた経済的にも著しい不利益であると推認できる。

<証拠>によれば原告が居住しうる土地建物と幾許かの収入を有することを認めることができるが、右の程度においては右の不利益を償うに足りない。

そして、<証拠>によれば、原告が除名処分の違法を修道会内の手続によつて争うことは現在ではもはやできないことが認められる。従つて原告が救済をうけるためには世俗の裁判所の判断をうけるより外ない状態である。

以上のように認められ、本件除名処分によつて原告が蒙る不利益は著しく大きく、本件除名は原告の基本的人権を侵害するおそれがあるので、当裁判所は本件除名処分の内容、成立手続について、判断しうると考える。

6  以上説示のとおり当裁判所は本訴における原告の被告会員たる地位の存否について判断できる権限があると考える。

第二(本案について)

一(原告が被告会員であつたこと)

原告が、オーストラリアに国籍を有し、昭和二四年(一九四九年)七月二四日カトリツク司祭の資格を得たこと、原告が終身誓願者であること、原告は昭和二七年(一九五二年)来日し、昭和三八年(一九六三年)から昭和四一年(一九六六年)までロンドン大学に留学し、その後日本国に居住していること、および被告は昭和二八年(一九五三年)四月三日宗教法人法の規定により登記をして法人格を取得した宗教法人であつて、宗教上ローマ法王庁を頂点とするキリスト教カトリツク派に属し、修道会聖心布教会の日本管区修道会としてカノン法及び典範によつて秩序を維持されている団体であること、そして修道会聖心布教会の会員の地位喪失は被告会員の地位を失わしめることは当事者間に争いがない。

二(除名処分の要件について)

1  原告が昭和四七年三月二二日カノン法第六五三条、典範第一五六条に拠つて退会(除名)処分に付されたこと、および、典範は右カノン法を受けて除名処分の要件として、「重大な外部的醜聞、もしくはコムニタスにとつて急迫する重大な害悪がおよぶおそれのある場合」と規定することは当事者間に争いがない。

2  <証拠>によれば、右のカノン法第六五三条、典範第一五六条の定める除名要件は次のとおり解される。

(一) 「外部的醜聞」とは、「被処分者が重大な宗教上のまたは世俗法上の罪を犯したこと、およびその事実が被処分者の所属する修道会の外部の人々に知れわたり、もしくは知れわたることが明白であること」を意味する。

右の宗教上の罪のうちには、修道者がその地位を得るにあたり神に対してなした誓願に反すること、修道者が遵守すべきとされるカノン法、典範等の規則に違反することも含むと解する。

外部の人々に知れわたることが明白であるかどうかは、その被処分者の醜聞の性質、重大性の程度と相関的に判断されるものである。

(二) 「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪がおよぶおそれのある場合」とは修道会そのものの存立を脅かすような害悪がさしせまつていることを意味する。

(三) 右(一)あるいは(二)の要件に加え、通常除名処分(カノン法第六四九条、第六五六ないし第六六二条、典範第一五五条)の規定によることが無意味であるかまたは右手続によることができない程度に修道会への害悪がさしせまつていること、あるいは特に緊急に処分されるべき必要性が存在することを要する。

3  そこで原告に対する除名内容を前記法上の規定に照らし判断する。

(一) 原告が貞潔の誓いをなしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告は昭和四五年(一九七〇年)ころから山本悦子と内縁関係にあつたが昭和四七年(一九七二年)一月ごろ同女は原告の子を懐胎した。そこで原告はそのころ原告の母をオーストラリアから呼び寄せ、また被告から八〇〇万円の交付を受けてその金で原告住所地所在の土地建物を購入するなどして山本の出産の準備をした。但し、原告は山本と婚姻するつもりはない。

(2) 原告がなした貞潔の誓いとは生涯を終るまで結婚をせず貞節を保持することを意味する。

(3) 女性を妊娠させたことは右誓いに違反すると言わなければならない。なお、近時性風俗における解放的傾向は著しく、一部カトリツク修道者の間においても、右誓いに違反したため自ら修道会を離れ、またその違反を秘して修道者としての生活を続けるものが存在することはこれを認めることができる。しかし、右のような世俗および修道会内の事情によつて貞潔の誓いの意味内容が変化することはなく、貞潔の誓いの意味内容は明瞭であつて、女性を妊娠させても右誓いに反しないことになる余地はない。また、カトリツク教の内において、その独身主義に対しては批評する者も存在するが、独身主義がカトリツク教にとつて適切かどうかは純粋に宗教上の事項に属し裁判所の判断の範囲外であつて、右批判の存在が原告の貞潔の誓いの違反を阻却することもない。

そして、右の貞潔の誓いに対する違反は、カノン法第五九三条が遵守すべきことを規定し、また同法第六四六条に「婚姻を結びまたは結ぼうとした場合はその事実により当然退会となる」との規定があることに徴してみれば、これをもつてカノン法上重大な宗教上の罪と判断される。

(4) 右事実は、山本悦子の姉など同人の親族らの知るところとなり、また被告会員テーラーから他の被告会員の知るところとなり、しだいに噂として被告内に伝わり、やがて信徒間に伝播して行くことが明らかな状態となつた。

(二) 原告が従順の誓いをしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告は昭和四三年(一九六八年)一〇月ころ日本管区長代理アスキユーの許可を受けずにオーストラリアへ旅行した。

(2) 原告は昭和四四年(一九六九年)一二月日本管区長の許可を受けずにオーストラリアへ旅行した。右旅行は、昭和四五年(一九七〇年)一月オーストラリア地区総長マクマーンが、原告に対し六ケ月間オーストラリアに滞留することを命じたことにより事後的に承認されたが、原告は右の滞留命令を無視して日本国へ帰つた。

(3) 原告はまた昭和四六年(一九七一年)三月オーストラリアを旅行中日本管区長の許可を受けずに旅行先を変更してヨーロツパへ行つた。

(4) 右事実は原告がなした従順の誓い、即ち、カノン法に従い教会の規律に基づく上長者のすべての命令に服従するとの誓いに反し、従つて右誓いを守ることを義務つげるカノン法第五九三条および旅行の時はその日程、ルードなどについて上長者の許可を得なければならないとする典範第八四条に違反する。

そして右のような数度にわたる原告の命令違反は修道会における規律を著しく乱すものであるからこれをもつて修道会に対する重大な罪と言いうる。

(三)(1) 原告が昭和四二年(一九六七年)四月ころより○○大学の講師をしていること、○○○の通訳をしたこと、英会話の教師をしたこと、それらにより収入を得たこと、および原告が清貧の誓いをしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は昭和四六年(一九七一年)一月以降右のようにして得た収入を上長者であるヨゼフ・バークに報告せず、かつ、自らのために使用したこと、原告は司祭館の自室にカーペツト、パネルヒーター、テレビを購入して備え、また原告専用の電話器を設置したとの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(2) そして<証拠>によれば、右認定の原告がその得た収入およびその使用について上長者に全く報告しなかつたとの事実は、収入はすべて上長者に報告し教会の収入となしその使途については上長者の監督をうけ清貧にふさわしい生活をしなければならないとの範典第五八条、第六〇条およびカノン法第五九四条に違反する。

そして右範典違反は修道会の規律を乱す行為であり、前記第(二)項の認定事実と合せて考慮するときは宗教上重大な罪と言いうる。

なお、原告は修道者の収入取得は慣行的に認められている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(3) 原告がカーペツト、パネルヒーター、テレビなどを購入して生活したことが清貧の誓いに反するか否かについては原告以外の修道者および修道者以外の者の生活一般と比較して判断されなければならない。

<証拠>によれば、原告が前記動産を所有しているに比して被告の所在地に居住している被告会員はそのような物を所有していないことがうかがわれるものの、被告会員のうちにはゴルフクラブの会員となりゴルフを楽しむなど前記動産の価格と比較し安価とはいえないスポーツを楽しむ者もいることを考慮するならば、カーペツト、パネルヒーター、テレビなどを所持しているだけで清貧の誓いに反するとは言えない。

(四) <証拠>によれば、原告が管区長のオーストラリアへの帰国命令に従わず被告の秩序を乱していることが被告の従業員など修道会以外の人にも明白な事実となつていたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(五) 以上によれば原告には除名処分の要件としての「重大な外部的醜聞」に該当する事実が存在すると認められる。

(六) 次に被告が除名処分の要件である「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪」に該当する事実として主張した事実について判断するに、

(1) 原告は昭和四六年(一九七一年)一〇月ころオーストラリア地区総長に対し会員らの性格を口ぎたなく非難し、スキヤンダルをあばく報告書を提出し、オーストラリアと日本の新聞に公表するとおどした旨の主張は、乙第九号証の一にその旨の記載があるものの、原告がなしたという批難および報告書の内容についての具体的な主張立証がなく、従つて被告主張の事実が存在し、その事実が「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪」であると認定することはできない。

(2) 原告が司祭館の改築に反対する書面を提出したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右書面中には共同生活は必要ない、金は自由を与え、寛大な精神を養うとの記載があることを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。しかしこの程度の事実をもつて「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪」と認定することはできない。乙第二四号証の二についてはこれが真正に成立したものと認めるに足りる証拠はなく、他に被告主張の原告がオーストラリア地区総長に二〇〇〇万円を要求したとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) <証拠>によれば、原告の子を懐胎した山本悦子は昭和四七年(一九七二年)二月ころ原告に無断でその子を中絶したが、原告は、山本が中絶した原因は被告会員テーラーが山本に原告を中傷する事実を述べたためであると考え、テーラー会員を殺人罪で告訴する旨述べたとの事実を認めることができる。しかし除名処分の要件となるのはコムニタス即ち修道会に対する害悪であるから、その会員に対する告訴がなされても、その告訴の理由が告訴を受けた会員の個人的な事情によるときは、この告訴を修道会に対する害悪とすることはできない。そして本件においては告訴の原因となつたテーラーの所為が修道会の職務としてなされ、そのため、テーラーに対する告訴が修道会に対する告訴と同視しうると認めるに足りる証拠はないから、右認定の原告がテーラーを告訴すると述べた事実をもつて、「コムニタスにとつて急迫する重大な害悪」と認めることはできない。

(4) <証拠>によれば、マクマーンが昭和四七年(一九七二年)三月一八日原告に対しオーストラリアへの帰国命令を伝達しようとしたが、その際原告は右伝達を拒むために警察官を被告建物内に建ち入らせたことを認めることができる。しかし、前掲各証拠によれば、原告は被告会員のうちに庇護者を失い、窮余の手段として単に帰国命令の伝達を阻止するだけの目的で警察官を呼んだのであり、被告または修道会聖心布教会の宗教的行為または人事権に介入させるために呼んだものではないことが認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、右事実をもつて修道会の存立を脅かす所為とは言いえない。

(5) <証拠>によれば、原告は昭和四四年(一九六九年)ころから宣教師としての仕事に熱心でなくなり、ミサをたてることもほとんどなく、また被告経営の英語アカデミーでの教師も昭和四四年(一九六九年)ころからしなくなつたとの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はないが、しかし、本件全証拠によるも被告主張の布教活動を全くしなくなつたとの事実は認められず、また英語アカデミーの教師をしなくなつたとの点についても英語アカデミーにおける教師は被告会員の付随業務にすぎないものであることを考えれば、右事実をもつて修道会の存立を脅す事由とはしがたい。

(七) 次に、本件除名処分を緊急処分によつてなさなければならなかつた事情が存在したか否かについて検討する。

<証拠>によれば次の事実を認めることができる。

既に認定の除名の要件となる各種の事実により被告の秩序は著しく乱されていたが、オーストラリア地区総長マクマーンは、原告の所為が除名処分に該当すると認識した後においても、まず原告の改心を求め、被告をオーストラリアへ帰国せしめることによつて除名を回避しようとした。そこでマクマーンは原告に対し、昭和四七年(一九七二年)三月一四日、一五日と数回にわたりオーストラリアへの帰国勧告をなしたが、原告はこれらをいずれも拒否した。そこでマクマーンは原告を除名することとし、三月一七日に原告に対し、帰国命令とともに右命令に従わない時は除名する旨告げて、カノン法による通常除名処分の第一回戒告をなした。マクマーンは三月一八日原告に対し、右戒告の内容を再度告知しようとした。ところが原告は警察に連絡して、警察官の派遣を要請して、右の告知を阻止しようとした。さらに、原告そのころよりその所在を被告会員らからに隠した。

マクマーンおよび日本管区役員会のメンバーは三月二二日役員会議を開き、除名要件および以上の経過を検討したうえ、通常の除名処分の手続では不十分であるとしてカノン法第六五三条による緊急の除名処分の手続によつて原告を除名するのが相当と判断して、その旨の決議をなし、これに従つて、原告の除名処分がなされた。

以上のように認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

ところで本件のように、一つの組織が、その自治規範において、数種の除名の手続を定めており、その数種の手続のうち一つを選択した場合においては、その手続の選択は明白に不法でない限り、その組織の判断に任せて然るべきである。そして本件においては、右に認定したように通常手続によらずに緊急手続に拠つたことについて、除名権者が恣意的に判断したものではないとの事情が認められ、かつ、緊急手続に拠ることを不当とする事由も認められないのであるから、当裁判所は修道会聖心布教会による緊急除名処分の選択を手続上の公序に反しない適法なものと判断する。

三(除名処分の手続について)

1  前出の<証拠>によれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 聖心布教会会員の除名処分は被処分者の上級上長者の権限であり、同人がその諮問機関の同意を得てなす。右の処分に先立ち、被処分者に戒告をなし、その戒告が効を奏しないことは、カノン法第六五三条、典範第一五六条の除名処分が緊急の処分であることから必要な手続とはされない。除名処分にあたり、被処分者を聴聞することあるいは弁解の機会を与えることは妥当な処置ではあるけれども、カノン法、典範はこの手続を必要欠くべからざるものとはしていない。

(二) 処分の告知において処分の理由を告げることは必要な要件ではない。

(三) 除名処分は、処分後すみやかに修道聖省の裁定を受けなければならず、右被定によつて確定する。処分後被裁定までの間の処分の効力は暫定的なものである。

2  次に原告に対する本件除名処分が右の手続要件を充足しているか否かを検討する。

(一) 修道会聖心布教会オーストラリア地区総長はその地区(日本管区を含む)における会員の除名権限を有していること、原告は昭和四七年(一九七二年)三月二二日付除名通知をうけたことは当事者間に争いがない。

(二) 被告は本件除名処分をなしたのはオーストラリア地区総長であると主張し、原告はこれを争うのでまずこの点について判断する。

<証拠>によれば、オーストラリア地区総長マクマーンは本件除名処分に際し、原告の処分を決定するためにオーストラリアから日本に来たこと、マクマーンは本件除名に関する日本管区の役員会議には常に出席したこと、除名処分の前に原告に対してなされたオーストラリアへの帰国命令の伝達はマクマーンがなしたこと、マクマーンが昭和四七年(一九七二年)三月一八日に原告に交付しようとした命令書(乙第一一号証)同年三月二二日付の除名通知書(乙第一四号証)および同年三月二五日付の再度の除名通知書(乙第一五号証)にはマクマーンが上長者との資格で署名していることの各事実を認めることができ、これらを覆すに足りる証拠はない。

(三) 除名手続については、<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

(1) オーストラリア地区総長マクマーンは、昭和四七(年一九七二年)三月七日、その諮問機関であるオーストラリア地区役員会から原告を除名する場合にはこれを承認し、その手続については右地区総長に包括的に委任する旨の決議を受けた上で同月一一日来日した。

(2) マクマーンは昭和四七年(一九七二年)三月一三日名古屋市において開催された日本管区役員会議(以下単に役員会議という)に出席し、右役員会議においては全員一致で次の事項が決定された。

(イ) 原告をオーストラリアに帰国せしめること、

(ロ) カノン法学者の判断によれば原告は当然退会すべきであるが、退会の時期および方法については管区長と地区総長の判断に委ねること

(3) マクマーンは、三月一四日、原告にその態度を改め、行いを正すよう最後の勧告を行うこととし、同日および翌日の二回原告に会い、オーストラリアへの帰国を勧めたが、原告は帰国しない旨回答した。

(4) そこでマクマーンは、原告を除名することとし、三月一七日、バーク、マクドウグルを立ち会わせて原告に会い、原告にマクマーンが原告の上長者であることを認めたさせたうえで、原告にオーストラリアへの帰国を勧め、原告が帰国しないときは除名もありうる旨告げ、カノン法第六四九条による第一回の戒告をした。

しかし原告はオーストラリアへ帰国することは原告および被告にとつて好ましくない旨述べてオーストラリアへ帰る意思のないことを表明した。

(5) マクマーンは三月一八日原告に対し、オーストラリアへ三月二一日に帰国すべきことを命令し、右に従わない場合は除名する旨通告した。

(6) 三月二〇日、マクマーンが出席して役員会議を開催し、原告が同月二二日までにオーストラリアへ帰国しないときは同日役員会議を開催して原告をカノン法第六五三条の手続によつて除名するか否かを決定するとの決議をした。

(7) しかるに原告は三月二二日までにオーストラリアへ帰国しなかつた。

(8) そこで同日、マクマーンが出席して役員会議を開催し、本件を再検討し、通常の除名手続では不十分であることおよびカノン法による手続に合致していることを確認したうえで、同法第六五三条により原告を修道会聖心布教会から除名する旨の決議をした。

(9) マクマーンとバークは同日連名で右決議に従つて原告を修道会聖心布教会から除名するとの処分をした。

(10) ローマ修道聖省は昭和四七年(一九七二年)四月一四日右除名処分を裁可した。

このように認められ、これらを覆すに足りる証拠はない。マクマーンの除名処分に関するその諮問機関の同意については、オーストラリア地区役員会はマクマーンに対し包括的委任をしたにすぎず、諮問機関の責務を果してはいない。従つてマクマーンの本件除名処分を有効なものとすることはできない。

(四) しかしながら、前掲各証拠によれば、オーストラリア地区役員会は原告の行状についてある程度の認識を有しており、原告が日本管区の所属であることから原告に対する処分は日本管区の役員会の決議に委ねることが相当であると判断していたこと、日本管区長バークは、オーストラリア地区役員会の右判断を背景にして、前項(2)(6)(8)に認定の各役員会議に出席していたことを認めることができる。そして、日本管区長が、カノン法第六五三条、典範第一五六条にいう上級上長者であり、その管区の会員を除名する権限を有することは当事者間に争いがなく、日本管区長バークが本件除名処分をマクマーンと連名でなしたことは既に認定したとおりである。従つて、日本管区長バークは日本管区の役員会の同意を得て原告を除名したので原告は除名権者によつて除名されたと判断できる。

原告は、被告の主張は除名権者について首尾一貫しないから除名処分の形骸はあつても正当な処分としては不存在であると主張するが、除名権者が誰であるかについての被告の判断が本件除名を不存在にすることは無いから、この点に関する原告の処分不存在の主張を排斥する。

そしてローマ修道聖省(カノン法第六五三条の使途座の名称は同法第七条により聖省をも意味する)の裁可も既にあつたのであるから、本件除名は有効に確定したものである。

原告は本件除名をとらえ多数者の暴力によつて少数者の原告を圧迫する旨主張するが、前記認定の除名の内容及び手続に照らして、多数者の暴力を認められないから右主張を排斥する。

(五) なお原告は貞潔の誓いに違反したことは本件除名処分の理由となつていないと主張するが、<証拠>によれば原告の貞潔の誓いに違反した事実も除名処分の要件として考慮されたことを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

四(公序および信義則に反するとの主張について)

<証拠>によれば本件除名処分にあたり、原告に対し除名処分の告知されたことはなく、従つて、右理由について原告の聴聞あるいは弁解の機会が与えられたことはないと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。しかしながら、被告代表者らが除名要件である醜聞をほしいままに作りあげたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

そこで、右の除名理由を告知せず、かつ、弁解の機会を与えなかつたことが我国の公序に反するかどうか検討する。

既に認定のように本件除命処分は、仮処分者にとつて重大な不利益を与える処分である。このような重大な不利益処分においては処分前において仮処分者に対し、除名理由の告知および聴聞あるいは弁解の機会を与えることが望ましいことは言うまでもない。いわゆる適正手続は各種の処分についてかかる方向性をもつて発展して来たのである。我国においても憲法第三一条以下はかかる事前手続を定めている。しかし、宗教団体内の秩序維持のための緊急手続についてまで右の事前手続をなすことが手続上の公序となつているとは、宗教法の自律性からみて、認められない。従つて、原告主張の公序に反する旨の主張は理由がない。

次に、原告主張の原告のオーストラリアへの帰国の有無を問わず除名することを決定しておきながら、帰国すれば除名しないかのように原告を欺いたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

<証拠>によれば、マクマーンおよび役員会議は、昭和四七年(一九七二年)三月一四日、「ヒユーは追放に値する」との決議をなしたことを認めることができるが、同日の決議は原告がオーストラリアに帰国した場合にも除名することを決議したとまでは認められない。他に右の原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

五以上によれば、修道会聖心布教会日本管区長バークが原告に対しカノン法に基いてなした除命処分は、その内容手続とも日本憲法下の基本原則、公序に反せず適法であつて、これにより原告は右聖心布教会会員たる地位を喪失したのである。従つてまた原告は被告会員たる地位をも同時に喪失したことになる。

第三(結論)

よつて原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(越川純吉 伊藤邦晴 松本哲泓)

別紙(一)

カトリツク教会法典(カノン法)抄訳

第一巻 総則

第七条

この法典においては、事項の性質上、または前後の関係上別段に考えられないかぎり、使徒座、もしくは聖座の名称は、ローマ司教のみならず、なお、ローマ司教が全教会の諸事を処理するため、通常に用いる聖省、裁判所、秘書局をも意味する。

第一章 教会の制定法

第一六条

(一) 無効および無資格を規定する法律の不知は、その種類を問わず、明白な反対規定がないかぎり、その法律の拘束力を阻却しない。

(二) 法律、刑罰、自己自身の行動および他人の公然の行動については、一般に不知または錯誤は推定されない。ただし、他人の公然でない行動については、反証があげられるまで、その推定を受ける。

第二巻 人

第一〇四条

錯誤が行為の要素に関するとき、または「絶対的」条件となるときは、行為は無効となる。さもなければ、行為は法律上別段の定めがないかぎり有効である。しかし、契約において錯誤は、法律の規定にしたがう取り消しの訴えを可能とする。

第一編 聖職者

第一部 聖職者一般

第一〇八条

(一) 少なくとも初剃髪によつて聖職についた者は、聖職者と呼ばれる。

(二) 前項の者は、すべて同格の位にあるものではなく、そのあいだに聖なるヒエラルキアがあり、それに従つて一つは他に従属する。

(三) 聖なるヒエラルキアは神の定めにもとづいて品級においては司教、司祭、助祭から成り立ち、裁治権においては教皇とそのもとにおかれる司教職から成り立つ。また、教会の定めによつて他の位も付加されている。

第一章 聖職者の一定教区への入籍

第一一一条

(一) あらゆる聖職者は、一定の教区または修道会に所属することが必要である。従つて聖職者が無所属の状態にあることは許されない。

(二) 聖職者は、剃髪式によって、それを奉仕のために許可した教区に所属する。即ち、これによつて、いわゆる「入籍」が定まる。

第二章 聖職者の権利および特権

第一一八条

聖職者のみが、品級権、教会裁治権、教会禄および教会における恩給を得ることができる。

第一一九条

すべての信者は、聖職者をその位階および任務にしたがつて尊敬しなければならない。聖職者の身体に危害を加える場合は、聖の罪を犯すことになる。

第三章 聖職者の義務

第一二四条

聖職者は、内外ともに平信者より聖なる生活を送り、徳と善業の模範を示すことにおいて彼らに優らなければならない。

第二編 修道者

第四八七条

修道身分、即ち一般の掟のほかに、従順、貞潔、清貧の誓願を立て、聖福音の勧告に従うことを努める継続的共同生活の様式な、すべての人はこれを尊敬しなければならない。

第一一章 修道会入会

第三節 修道立願

第五八〇条

(一) 有期であると永久であるとを問わず、あらゆる単純誓願の立願者は、会憲に別段の規定がないかぎり、自己の財産に対する権利と、他の財産を取得する権利とを保有する。なお、第五六九条の規定の適用を妨げない。

(二) ただし、自己の精励によつて取得したもの、または修道会の目的のために贈与されたものは、修道会に帰属する。

(三) (略)

第一三章 修道者の義務および特権

第一節 義務

第五九二条

第一二四条ないし第一四二条に規定された聖職者の一般義務は、条文の前後の関係上、または事物の性質上、別段に解されないかぎり、すべての修道者にもおよぶ。

第五九三条

すべての修道者は、従属者も上長者も等しく、立てた誓願を忠実、かつ、完全に守り、また従属修道会の会則および会憲に従つて生活を整え、その身分の完成に邁進する義務を負う。

第五九四条

(一) いかなる修道会においても、共同生活は、食事、衣服または家具に関することも含めて、全員によつて正確に守られなければならない。

(二) 上長者をも含む修道者によつて取得されたあらゆる財産は、第五八〇条第二項および第五八二条第一号の規定に従つて、修道院、管区もしくは修道会の財産に併合される。また、あらゆる金銭およびすべての「証券」は、共同会計に保存されなければならない。

(三) 修道者の家具は、誓願した清貧にふさわしいものでなければならない。

第一五章 修道会よりの脱会

第六四〇条

(一) 還俗の恩典を得て修道会を去る者は、

1 自己の修道会より離脱する。その修道服の外形をやめなければならない。ミサおよび聖務日祷ならびに秘跡を受け、これを授けることに関して教区従属者と同等に扱われる。

2 誓願を解かれる。ただし、上級品級にあげられている者の場合は、上級品級の義務は存続する。なお、立願によつて唱うべきである時課の義務を負うことなく、しかも、他の会則および会憲に拘束されない。

(二) 使徒座の恩典によつて再び修道会に入会を許可される場合は、新たな修練と立願をしなければならない。かつ、新たな立願の日から誓願者のうちにその席を得る。

第一六章 修道者の退会

第六四六条

(一) 以下の場合においては、修道者は、その事実により当然、退会させられたものとなる。

1 カトリツク信仰の公の背棄者となつた場合。

2 男子修道者が女子と脱走した場合、または修道女が男子と脱走した場合。

3 結婚を結び、または結ぼうとした場合。民法上のみの絆を結び、または結ぼうとした場合をも含む。

(二) 前項の場合においては、上級上長者が会憲の規定に従つて、その議会、または諮問機関とともに事実を宣言すれば足りる。なお、集められた事実の証拠を修道院の記録庫に保管するよう配慮しなければならない。

第二節 免属でない聖職者修道会、または平修道者会において永久誓願を立てた修道者の退会

第六四九条

男子の免属でない聖職者修道会および平修道会において、永久誓願の立願者を退会させるためには、第六五六条ないし第六六二条の規定による三つの犯罪、再度の戒告および改心の欠如が先だつことを必要とする。

第六五〇条

(一) 修道会の総長は、前条の要件を確知したときは、その諮問機関とともに事件のすべの状況を考慮して、退会の事由の有無を審査しなければならない。

(二) 投票の大多数が退会を支持する場合

1 教区法による修道会においては、立願者の修道院が存在する教区の裁治権者に、全事件の記録を提出しなければならない。教区裁治権者は、第六四七条の規定に従つて、自己の賢明な裁量によつて退会を判定する。

2 聖座法による修道会においては、修道会の総長自身が退会を命令する。この命令が効力を発するためには、使徒座によつて承認されなければならない。

(三) 修道者は、自由に異議を申し立てる権利を有する。その異議は、記録に忠実に記載しなければならない。

第六五一条

(一) 盛式および単純の永久立願修道女を退会させる場合においても、重大な外的事由と宿弊の存在することを必要とし、しかもこの宿弊が試練の結果、長上によつて改善の望みがなく、矯正しがたいものと判断される場合にかぎる。

(二) 第六五〇条第三項の規定は、修道女の退会についてもこれにしたがわなければならない。

第六五二条

(一) 教区法による修道者の場合、退会の事由を審査し、かつ、退会を命令する権利は、立願した修道女の修道院が所在する教区の裁治権者に属する。

(二) 隠修道女の場合、教区裁治権者は自己の意見を、また、隠修道院が盛式修道者に従属するときは、その盛式上長者の意見とともに、すべの記録と文書とを聖省へ送付しなければならない。

(三) 聖座法による他の修道女の場合、修道会の総長は、同様に全事件を聖省に報告し、すべての記録と文書とを送付しなければならない。聖省は、この場合においても、また、前項の場合においても適当と判断する処置を行なう。ただし、第六四三条第二項の規定の適用を妨げない。

第六五三条

重大な外部的醜聞をおこし、もしくはコムニタスにとつて急迫する重大な害悪がおよぶおそれのある場合は、上級上長者は、諮問機関の同意を得て、また、遅滞により危険が発生するおそれがあり、かつ、上級上長者に依頼する時間がないときは、現地上長者は、その諮問機関および教区裁治権者の同意を得て、その場で修道服を剥脱したうえ、修道者を世俗へもどすことができる。ただし、この場合裁治権者、また、上級上長者があるときは、上級上長者は直ちに事件を使徒座の裁定に付さなければならない。

第三巻 物

第一編 秘跡

第七章 婚姻

第一〇一六条

受洗者の婚姻は、神法によるのみならず、教会法によつても規律される。ただし、その婚姻の民法上のみの効力に関しては、国家権力権限を妨げない。

第四巻 手続

第一編 裁判

第一五五二条

(一) 教会裁判とは、教会が審判権を有する事項に関して、教会裁判所において行なわれる争訟の適法な審理および判決をいう。

(二) 裁判の対象は次の事項である。

1 自然人あるいは法人の権利の追求もしくは擁護、または自然人であると法人であるとを問わず法律効果を生ずる事実。これを宣言することを「民事裁判」という。

2 犯罪行為。裁判の目的は、刑罰を加えまたはこれを宣言することにある。この場合を「刑事裁判」という。

第一五五三条

(一) 教会は固有にして独占的な管轄権をもつて次の事件を審判する。

1 霊的事項および霊的事項に付帯する事項に関する訴訟。

2 教会法上の違反、および罪過の有無を審理し、これに罰を科する範囲にかぎり、罪となるすべての事項。

3 第一二〇条、第六一四条および第六八〇条の規定にしたがつて、法廷特権を享有する人に関する民事または刑事のすべての事件。

(二) 教会および国家がともに管轄権を有する事件、すなわち競合法廷と呼ばれる事件においては、先着手行為を認める。

第二部 特定の裁判に関する特別規定

第二〇章 婚姻訴訟

第一節 管轄裁判所

第一九六〇条

受洗者の婚姻訴訟に対しては、教会の裁判官のみが固有にして独占的な管轄権を有する。

別紙(二)

聖心布教会典範抄訳

第一部

第一章 名称および目的

第一条

協会の名称は聖心布教会という。

第二条

教会の一般的目的は、清貧、貞潔、従順の三つの単純誓願および以下の典範の遵守によつて会員の神聖化を図ることにある。

第四条

教会はその目的をより有効に達成するため、特に次の仕事に専心する。

(a) 礼拝と研究により、クリスト、主なる神そして聖心についての深い知識を得ること。

(b) イエズスの聖心への帰依を広げること。

(c) 説教と著述による信仰の普及と擁護。

(d) (略)

(e) 若者の教育。

(f) 聖座の許可を得て行う異教徒の中での布教。(但書略)

第六章 清貧の誓願とその効果

第五一条

清貧の単純誓願により、会員はどんな現世の物についても正式な上長者の許可なく合法的に処分しうる権利を放棄する。

第五六条

誓願者はその財産の基本的所有権、およびその財産を取得する能力を保持する。

(二項略)

第五八条

誓願後は、信仰家が上長者であれ、また普通の会員であれ、贈りものとして受けとるか自身の仕事によりまたは、会のために、または聖職の故に、またはその際取得するどんな物でも、個人への贈りものとして取得し保有することはできない。修道院または教会の利益のために、共同体の財産に加えなければならない。

第六〇条

教会によつて所有されている財産と会員の用に供する予定の財産については、会員だけのために取得したり、使用したり、傷つけたり、または破棄してはならない。(中略)特に誰でも金銭をその望みに従つて消費するため保有せしめない。

第七章 貞潔の誓願とその効果

第六四条

貞潔の誓願により、誓願修道会員は自ら独身生活を守る義務を負い、かつまた、新しい義務、即ち、誓願それ自身の義務により、貞潔に反するあらゆる行動を慎しむ義務を負う。

第八章 従順の誓願とその効果

第七二条

従順の誓願により、会員は、正式な上長者が誓願と典範に関する命令を直接明確にあるいは間接暗黙に与えたときは、その上長者に従う義務を負うことを引き受ける。

第七三条

正式な上長者が神聖な従順のゆえに、あるいは形式的戒律またはそれに類する言葉によつて明確に命令したときは、会員はその誓願の故に、従うべく義務づけられる。

第八四条

旅行は、その日程、乗り物、順路について、清貧および従順に従つて規制されるべきである。会員は旅行の際、世俗の人と宿泊することをできるだけ避けるべきである。

第一二章 退会

第一五五条

永久誓願者を退会させるためには、三つの罪が犯され、これに二度の戒告がなされたが改心しなかつたことが先だつことを必要とする。総長は、これらの事実が確認されたとき、諮問委員会とともに事件が退会に値するかどうかを協議すべきである。投票の結果多数者が退会を支持すれば、総長自身が退会命令を発する。但し、この命令が効力を発するためには、使徒座によつて承認されなければならない。修道者は自由に自己を弁護する権利を有し、その答弁は手続記録に忠実に記録されなければならない。

第一五六条

重大な外部的醜聞、もしくは修道者共同体を脅やかす非常に重大な危害の場合、上級上長者は、その諮問委員会の同意を得て、また、遅滞により危険が発生するおそれがあり、かつ、上級上長者に依頼する時間がないときは現地上長者がその諮問委員会および地区裁治権者の同意を得て、修道者を直ちに退会させることができる。その修道者は直ちに修道服を脱がなければならない。但し、事件は遅滞なく聖座の裁定に付さなければならない。

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